ご家庭の「文化」?

 家事事件に関わっていると、それぞれの当事者のご家庭の「文化」の違いを感じることが多い。

 子供を躾けるときにも「体罰は絶対ダメ」というご家庭もあるし、「体罰やむなし」というご家庭もある。

 自分の実父母に配偶者の悪口を言うことについても「それは、許されない。」という人もいれば、「何の抵抗も無い。」という人もいる。

 配偶者のスマホを勝手にチェックするなんていうのは、時々雑誌やテレビでも話題にのぼるが、これについても感じ方は人それぞれであろうと思う(個人的には「浮気するならスマホは持つな」と考えている。)。

 

 長年弁護士をやっていると、依頼者や相手方の価値観というのは千差万別であるなぁ…としみじみ思う。さすがに大抵のことには驚かなくなったけれど、たまに「それはないでしょ!」と思うような価値観・習慣を持つ方に出会う。

 

 夫婦関係の紛争でも、遺産関係の紛争でもそうだが、紛争の根っこにご家庭の「文化」の対立があると、紛争の解決は困難を極める。どちらの文化が正しいとか、間違っているというわけではない。

 第三者的立場で関与する私からすれば、詳しくお話を聞いてみると「なるほどそういう考え方もあり」なのかと思える場合がほとんどである。しかしながら、当事者にとっては問題は「文化」の対立なので、いくら言葉を尽くして説得をしても容易に納得は得られない。

 イスラム教とキリスト教の対立と同じで、理屈の問題ではないので、対立が先鋭化して収拾がつかなくなることも多い。

 

 今はほとんどなくなったと思うが、見合い結婚というのはそれなりに合理性のある制度だったのかなとも思う。あらかじめご家庭の「文化」に共通性があることを確かめた上で結婚する制度だからだ。

 今のご夫婦はほとんど恋愛結婚だし、極端な話、ネットゲームで知り合って結婚したというカップルもいるようだ。そんなご夫婦が結婚するとご家庭の文化の違いに直面し、ギクシャクして、ときに離婚を前提にした紛争となる。

 

 うまくいっているご夫婦は、夫のA家の文化と妻のB家の文化を融合させてαβ家の新しい文化を創造しているように思う。ご家庭の文化を融合させるためには、夫と妻が良くコミュニケーションし、かつ互いに相当譲歩することが必要なのだと思う。

 文化の融合は極めて困難な作業であり、場合によっては「改宗」にも匹敵するほどの価値観や習慣の根本的な変更を迫られる。

 特に弁護士が関わるような紛争の場合、既に対立が決定的となっており、円満解決のためには当事者相互の相当な努力が必要となるし、それが無理であれば、円満解決をあきらめるしかない場合もある。

 

 私自身は、できれば円満解決が望ましいと考えている-とりわけ幼いお子さんがいるご夫婦の場合-が、力およばず残念な思いをすることも多い。