パワハラ?

 もう25年以上前のことであるが、私にも司法修習生(裁判官、検察官弁護士になるための研修生)であった時代がある。当時研修期間は2年間で、私は札幌で研修を受けたのだが、札幌に配属された研修生は男性ばかりの18名であった。当時は、研修生と研修先の裁判官、検察官、弁護士との関係も現在とは比べものにならないほど親密であった。指導担当の裁判官や検察官のご自宅にお招きいただいたこともあるし、観楓会(秋に紅葉を愛でると称して行う飲み会)、スキー等の親睦旅行にも連れていっていただいた。

 観楓会の温泉旅行の宴席で、中堅裁判官に頭からビールをかけられたこともあったっけ。「○○さんやめてくださいよォー」といった程度のおふざけであるが、今の感覚からしたらこれもパワハラなのかしら?

 指導裁判官・検察官の研修生に対する指導もそれなりに厳しいもので、明らかに駄目出しされることは珍しくなかったように思う。それでも研修生に対する指導はまだ手加減されている方で、若い裁判官・検察官に対する上司の指導はさらに厳しいものであった。当時、上司に叱責されてしょげかえっている若い裁判官や検察官の姿を見たことは1度や2度ではない。

 時を経て、私も弁護士25年目となった。弁護士会の会議の参加メンバーを見まわしても、ももうジジイの方である。裁判の相手方になる弁護士も、協力して事件に取り組む弁護士も私より若い方が多い。若い弁護士から見ると私の態度がパワハラとなっていないかしらと時々気になる。

 非常に大ざっぱなたとえだが、若い弁護士の起案(訴状や弁論など法律文書の草案)を見せてもらって、私が気になる点が10あるとしよう。そのうち5くらいが若い弁護士の間違いで、3くらいが意見の分かれるところ、2くらいが私の勘違い、間違いであるとする。10全部を指摘すると若い弁護士からみるとパワハラとなってしまうのではないかと気になる。結局、明らかに若い弁護士が勘違いしていると思われる点を2、3指摘するだけにしてしまう。本当は3くらいある意見が分かれるところで充実した議論がしたいのだが、議論を仕掛けると若い人が萎縮してしまうのではないかと考えてしまう。そうすると私自身も消化不良に終わるし、若い弁護士からみても「なんだぁー」てな感じで終わってしまうのではないか。

 「NITA」という刑事弁護活動の実地研修でも、講師はまず良い点をほめた上で、改善点を1つだけ指摘するのが基本だという。なんだかまどろっこしい気もするが、それこそ「ゆとり(学習)世代」が今の若手なので、そのぐらい配慮してあげる必要があるのかも知れない。

 結局のところ侃々諤々の議論は同年配の弁護士や少なくなりつつある先輩弁護士に仕掛けるしかない。

 多少きつく批評してもへこたれない生意気な若手がいないかなぁー…。生意気な奴にもそれはそれで腹が立つこともあるのだが。