私が自身の前歯を失ったのは、忘れもしない平成3年10月、司法試験口述試験中の夜であった。試験会場(当時は世田谷区三宿)近くのホテルで、ビーフジャーキーを肴に一杯やりつつ翌日の試験の勉強をしていた時だ。「カキーン」と脳内に衝撃音が走ったかと思うと、上の前歯(歯茎)に痛みが走り、血がにじんだ。前歯は虫歯のため神経を抜いていたので、脆くなっていたらしい。ビーフジャーキーを噛む圧力に耐えられなかったようだ。
その後、前歯が取れそうな状態(歯茎に貼り付いてかろうじてつながっている状態)のため、食事に不便したが(うどんなどの柔らかいものしか食べにくい。)、何とか試験を乗り切り合格することができた。
以来、およそ25年、前歯4本と犬歯1本を失うことになった。口述試験の時折れた前歯は、ボンディングだかの応急処置で仮止めしてもらっていたのだが、私は、自身自覚がないけれども家族らによると、寝ている間激しい歯ぎしりをするようで、歯にかかる圧力は並大抵ではないようだ。仮止めではすぐに取れてしまい、程なく差し歯となった。以来、何度かの歯科治療を経て、他の前歯2本も差し歯となり、数年前からは前歯3本がつながった状態の差し歯であった。
私は、ヘビースモーカーな上に、不摂生もたたったのか、上の前歯がグラグラしてきたなと思っているうちに自然に抜けてしまった。となりの差し歯ではない前歯も時を前後して自然に抜けた。
結局、上の前歯4本が全部無い状態になってしまった。とても不便である。サ行の発音が明瞭にできない。ラーメン等の麺類を食べようとすると麺がかみ切れない。仕方が無いので、麺の全部を啜り切り、奥歯で咀嚼する。もともと病院嫌いだし、歯科医にも何年もかかっていなかったけれど、さすがに歯科を受診した。歯科医によると、右側上の犬歯もダメになっているということで抜歯された。1か月ほど前歯の無い状態が続き、先日やっと入れ歯が完成した。
咀嚼能力は、いくぶん向上したが、入れ歯はやはり不便である。歯が全部つながっているので、前歯に食べかすが挟まらなくなったのはいいのだが、自分の歯と比べるとやはり食べ物は食べにくいし、発音もちょっとおかしい。慣れると改善するのかもしれないが、やはり自分の歯が一番であろう。
何とか残りの歯を維持するよう努めたいが、タバコをやめない限り、難しかろう。タバコをとるか、健康な歯をとるか、それが問題である。
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