刑事弁護のお値段

 「刑事弁護に強い」と広告・宣伝をしている全国に支店をもつ法律事務所(以前、過払いに力を入れていたところやカタカナ名前の法律事務所も多い。)のホームページを見て刑事弁護の料金表をチェックしてみた。

 着手金30万円からというのはまあわかる。以前適用されていた弁護士会の統一的な報酬基準でも着手金は30万円以上とされていたからだ。

 しかし、刑が軽くなっただけで成功報酬30万円というのはいかがなものかと思う。裁判官は、検察官の求刑からいくらか軽くして刑を言い渡すのが普通(8掛けなどといわれる。)で、むしろ求刑どおりの判決が言い渡されたら弁護活動は失敗だったともいえる。刑が軽くなっただけ(失敗しなかっただけ)で30万円もの成功報酬をとるのはいくら何でも高すぎると思う(私が良心的と思う刑事弁護に強い事務所の料金表は7割以下に下がった場合としていた。)。

 その他にも、接見が一定回数を超えたら追加料金を取ったり、保釈が認められたら保釈保証金から一定割合の報酬金を取ったりする事務所もあった。

 いろいろな考え方の弁護士がいると思うが、私には明らかに取り過ぎと思われる。

 そもそもこれらの事務所の弁護士が刑事弁護に強いかどうかの客観的な保証もないと思われる。

 

 国選弁護だと、前科のない人の覚せい剤使用・所持の自白事件(要するに今回の清原元選手)で勾留段階から弁護人となり執行猶予の判決が出たとしても15万円前後の収入である(執行猶予がついても報酬は出ない。)。

 国選弁護は基本的に弁護人を選べないし、途中で取り替えてもらうこともできないので、余裕があれば私選で信頼できる弁護士を頼むのがよいと思う。

 上記の「刑事弁護に強い」と自称している法律事務所だと覚せい剤使用・所持の自白事件でも保釈を認めてもらったりすると合計100万円ぐらいの費用がかかると思われる。

 私が私選でやるとすれば着手金20万~30万、執行猶予がついたことの成功報酬が10万の合計30~40万円でやらせてもらうのではないか。何回接見に行こうが、保釈を認めてもらえようが追加料金は取らないと思う。私が札幌で熱心に刑事弁護をやっているなと思う弁護士たちも多少の上下はあるだろうが、前科がない人の覚せい剤使用・所持の自白事件では総額30~40万円くらいで引き受けるのではないかと思う。

 

 ところで私選弁護を依頼できる人たちは、国選弁護を依頼せざるを得ない人たちに比べ、経済的に余裕があり、定職に就いている人が多いと思われる。また、いままで警察のお世話になったこともないし、前科もない人が多いと思われる。

 このような人たちが、オレオレ詐欺や暴力団の関係する犯罪に関わっているとは通常考えにくく、私選弁護を依頼できる人たちが犯してしまう犯罪として多いのは交通事故・交通違反関係、酒に酔ってのトラブル(ケンカ・器物損壊・痴漢など)ではないかと思う。

 市民の方は自分や身内が逮捕されるなど滅多に経験することはないので、気が動転し慌てるだろうし、大変なことになったと狼狽すると思う。「刑務所」という言葉が頭に浮かぶと思う。

 

 しかし、死亡事故や被害者が亡くなってしまった場合を別とすれば、交通事故・交通違反や酒に酔ってのトラブルで、前科のない人がいきなり実刑判決を受けることはまず無いと思われる。

 それどころか、これらの罪では普通に弁護活動を行えば(要するに失敗しなければ)仮に逮捕されたとしても勾留されずに釈放になったり、起訴猶予や罰金(これも前科のひとつではあるが)ですむ場合も多いのである(なお、上手な弁護士がやっても下手な弁護士がやっても結論は変わらないと思われるが、上手な弁護士がやった場合、犯人に上手に反省を促すし、再び罪を犯さないよう環境調整を行ったりするので、再び同じ罪を犯す率は下手な弁護士がやった場合と比べて低くなるのではないかと思われる。)。 

 

 冒頭の「刑事弁護に強い」と自称している法律事務所は、自分や身内が逮捕されたことである種のパニック状態となっている依頼者から高額の着手金や成功報酬を取っているように思うのである。

 「刑事弁護に強い」と広告・宣伝している法律事務所に依頼する前に、是非、当事務所を含めた普通の法律事務所に料金の見積もりをしてもらうことをおすすめしたい。