事実と評価

 「実は夫が浮気をしています。離婚できるでしょうか?慰謝料は取れるでしょうか?」という法律相談を受けたとします。これに対し弁護士が「離婚できますよ。慰謝料も取れますよ。」と即答したとしたら法律家として失格です。

 「夫が浮気をしている。」というのは、相談者にとっては事実なのかもしれませんが、相談を受ける弁護士としては「相談者の事実に対する評価」と受け止めるべきだからです。

 

 私は、事実と評価を区別することは弁護士にとって重要なことだと考えていますし、日頃意識して弁護士業務を行っているつもりですが、事実と評価を正しく区別することはなかなか難しいものです。私自身いまでも間違ってしまうことがあります。

 

 「この部屋は広い部屋だ」というのが評価だという点は多くの人に納得していただけると思います。広いか狭いかはその人の感じ方次第だからです。

 「この部屋の面積は30平方メートルだ。」というのは事実と考えて良さそうですが、面積の測り方が間違っているかもしれません。また、部屋の面積についていうと「壁芯(へきしん)面積」(壁や柱の中心から測った面積)と「内法(うちのり)面積」(実際に使える部屋の面積)というのがあって壁芯面積の方が内法面積より若干広くなります。

 

 法律問題における事実と評価はもっと込み入っており、例えば最初の浮気の例でいうとまず浮気とは何を意味するのか確認する必要があります(夫が高校の同級生だった女性と二人きりで食事をするだけでも「浮気」と考える妻もいます。)。また、法律でいうところの「不貞行為」は離婚原因ですが、婚姻関係が修復不能となってしまった(破綻(はたん)といいます。)あとの不貞行為の場合、慰謝料がもらえないか大幅に減額されることがあります(法律にはこのような例外の条件がとてもたくさんあります。)。また、夫が浮気を否定した場合に、最終的には妻の方で不貞行為の存在を立証する必要がありますが、適当な証拠がない場合も多いです。

 

 最初に「離婚できますよ。慰謝料取れますよ。」と即答したら失格と書いた意味がおわかりいただけると思います。実際の法律相談では、妻がどうして浮気と考えるようになったのか事実を時間をかけて丁寧に聞いていきます。そうすると、妻が浮気と思っていることが、不貞行為にあたるのか判断(評価)することが少しずつ可能になっていきます。また、例外の条件にあたらないかについても事実を丁寧に聞いていく必要があります。さらにこれらを立証するためにどのような証拠があるのか、その証拠から別の評価が出てくる余地があるのかといった観点からも妻の話を聞いておく必要があります。

 

 最近見ていませんが、テレビの法律相談番組は時間の制約や視聴者受けをねらう必要があることから、このような法律相談のプロセスを軽視して、結論に先走りがちです。

 

 私は、法律相談はやはり相談を受ける弁護士と直接向かい合って行うのがベストだと思います。

 電話でご相談を受けることもありますが、電話での相談には限界があります。

 当事務所はご予約いただければ土日や夜間も対応しておりますので、まずはお気軽にお電話か相談フォームでご連絡ください。